壮観の放言高論

書のこと、師匠北畑観瀾のこと、中国語関係のことを中心に気ままに書いていきます。

大雪

 2018年1月22日(月)、その日は午前中からチラチラと雪が降り始め、午後になると本格的な降雪となった。午後3時を過ぎると職場では早めの帰宅指示が出された。都内のJR品川駅や渋谷駅ではホームへの入場規制がされ、一部列車の運休や間引き運転で混乱を来したが、なんとか無事帰宅できた。本日2月2日(金)の朝も昨晩から降り始めた雪で高速道路や飛行機などの交通機関に影響がでたようだ。

 30数年前のある稽古日、稽古材料を持って観瀾先生宅を訪問した。予報では午後から雪となっていたので早めに帰宅しようと思っていた。その日先生宅を訪れたのは3人。Iさん、Mさんと私。この3人は先生から特訓と称して短期間で徹底的に仕込まれたメンバーで、弟子の中では年齢が若くて近かったため(弟子の最年少は私です)、仲が良かった。稽古が始まるとまさに真剣勝負で時間が経つのも忘れるほどに夢中になって臨書した古典の原本を見たり、お互いの作品の批評をしたり、先生の原本の筆遣いの解釈を聞き漏らすまいと必死であった。ふと気が付くと外はすでにチラチラと雪が舞っていた。その時はまだ早めに帰れば大丈夫だと思っていたが、しばらくすると2階から同居している作家のO(オー)さんが下りてきて「京王線が雪で不通になった」と私たちに告げた。庭を見ると雪が勢いよく降っていてすでに10センチ以上積もっていた。その日は日曜日、私は学生であったので何てことはないが、国会議員秘書のMさんは翌日は仕事。途方に暮れていたが仕方がない。しばらくすれば復旧するかもしれないと淡い期待をしていたが、残念ながらその期待は裏切られ、私たち3人は先生宅に泊まることになった。

 その晩は、有り合わせの食材で鍋をした。幸いに鯛の切り身が少しあったので「鯛ちり」だ!と盛り上がり、「にわか鯛ちり」をみんなで美味しく食べた。みんなでワイワイと色んな話をしたが、その中心となるのはやはり観瀾先生だった。先生はご自身が体験した様々なことを鮮明に覚えており、それを面白おかしく話して下さる。時には真面目に。しかし最後は必ず「辛抱は美徳じゃない!」、「好きなことを好きにやって、人生楽しまなきゃ損だ!」、そして「自分を大切にしなさい。自分を大切にできない人が、他人を大切にすることは出来ない!」という結論になるのであった。今でも先生の声や口調が鮮明に思い出される。

 先生宅には何故か弟子ではない私の父専用の蒲団がある。私はそれを押し入れから引っ張り出し、IさんMさんは来客用の蒲団を引っ張り出して、稽古場に川の字に並べて就寝した。私は先生宅に泊まる変な緊張でなかなか寝付けなかったが、意識は次第に深い闇に染まっていった。